【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第47話・小さな助っ人たち」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第47話・小さな助っ人たち」by RAPT×TOPAZ

公園の中では、大勢の子供たちが遊んでいた。
「朝早くから元気だな……私はもうクタクタだよ……」
子供たちを尻目に、プレトは頭痛薬を飲んだ。
「これさ、なんとか対策を考えないとまずいよね。これからも追いかけてくるだろうし、その度にベタベタくっつかれたら、絶対に事故になるよ」
「そうだよね……とりあえず、これ全部剥がさないと移動できないよ」
二人はレグルスから降りると、アメーバのようなものを引っ張ってみた。
「なかなか剥がれないね……ダメ元で熱消毒機能を使ってみようか」
ルリスはそう言って、ハンドル横の炎のマークがついたボタンを押した。数分で熱消毒が完了する。それを確認したプレトは、再びアメーバのようなものを引っ張ってみた。
「なーんにも変わっていないよ。これくらいの熱じゃ弱らないんだ……」
「でも、ゼリーベンゼンって、加工するときに熱したり冷やしたりするんだよね? ライターで表面を炙ったら弱るかな」
ルリスはそう言うと、バックパックからライターを取り出し、アメーバのようなものの表面を炙りはじめた。全体に火を当ててから引っ張ってみると、先ほどよりはいくらか簡単に剥がすことができた。
「炙ると少しは粘着力が弱くなるみたいだね」
「この作戦でいこうか」
レグルス全体に貼りついているため、全て取るにはかなりの時間がかかりそうだ。片方が炙って、片方が剥がす。ときどき交代しながら、必死に取り除いていった。
数枚を剥がし終え、プレトが額に浮いた汗を拭ったとき、公園にいた子供たちが近くに来ていることに気がついた。こちらをじっと見ている。
「ねえ、子供たちが見てる……」
「わたしたち、怪しいのかな? この状況だと、第三者から見たら不審者だもんね……」
「通報されたら大変だ。ただでさえ警察が敵に回っている可能性が高いのに、子供に通報されたら終わりだよ」
そのとき、一人の少年が近づいてきて、声をかけてきた。虫かごと虫取り網を持っている。10歳くらいだろうか。
「なにしてるのー?」
「この白いやつを取ってるんだよ。悪い人にいじめられたんだ」
プレトは正直に答えた。
「ふーん」
少年は珍しいものを観察するような目で、変わり果てたレグルスを見ている。
「君は虫取りをしているの?」
「うん。でも、チョウチョをとりたいんだけど、全然とれないんだよ。なんであんなにヒラヒラ飛ぶんだよ。まっすぐ飛べよな」
「ああ……チョウチョはね、前から網を被せるようにすると取りやすいよ。思いきって素早くやるのがコツだよ」
「へー……やってみる」
少年はそう言うと、仲間の元へ駆けていき、虫取りに戻ったようだった。
「通報ルートは回避できたかな……」
胸をなでおろし、再びルリスと共に除去作業に戻った。また数枚剥がすことに成功したが、それでもフロントガラスの半分が塞がったままだ。
「きりがないね……」
ルリスが呟いた。
「ちょっと休憩しようか」
プレトが地べたに腰を下ろしたとき、後ろから優しく肩を叩かれた。振り向くと、先ほどの少年だった。虫かごを顔の前にかざしている。その中にはチョウがいた。
「師匠のおかげで取れた!」
「師匠?」
「お姉さんは虫取りの師匠だよ。虫の観察が夏休みの宿題だったんだ。これでできるよ! お礼に、その白いやつ剥がすの手伝ってあげる! みんな来てー!」
少年が呼ぶと、他の子どもたちもわらわらと寄ってきて、アメーバのようなものを剥がしはじめてくれた。思わぬ助っ人たちだ。そうこうしているうちに、彼らの手が届かない天井以外すべて除去することができた。
「みんなありがとう!」
ルリスが子供たちとハイタッチをした後、子供たちはそれぞれ「おやつ食べる」「宿題をやらないと母ちゃんに怒られる」「レグルスのプラモデルを作る」「練り消しを作る」「プールに行く」などと言いながら帰っていった。
「あの子たちがいなかったら、今日中に剥がし終わっていなかったかもね」と、ルリス。
「ほんとにね……これ、100枚近くあるじゃん。わざわざこんなに積み込んで追ってくるなんて。せっかく大量のサンプルがあるんだから、解体してみようか」
プレトはそう言うと、地面に落ちているものの中の一つに、アーミーナイフを突き立ててみた。が、なかなか刃が通らなかった。
「やっぱり、炙りながらやらないとダメか……」
ルリスに炙ってもらい、ナイフでなんとか引き裂いていく。密林で罠に嵌まったときの、工作の経験が役に立った。ゼリーベンゼンを破いていくと、硬いものに刃が当たった。なんとか剥がしていき、硬い部分を完全に取り出した。
「こんなのが入っていたんだね……だからあんなに早く動けたのかな」ルリスが呟いた。
刃に当たったものの正体はワイヤーだった。合計3本のワイヤーがアスタリスクの形になるように、中央で留められている。そこには、小さな半導体とバッテリー、服のボタンのようなものが配置されていた。
「単純な作りだから、こんなにたくさん用意できたんだね。一応、電気で動いているのかな。このボタンみたいなものは……もしかして、浮遊させる機能かな? レグルスの機能を応用しているのかもしれない。でも、これの方が軽いから、レグルスより早く動けるんだろうな……」
「プレトはこういうの詳しい?」
「いや、これは工学とかそっちのジャンルになるから、私はちょっと……」
「でも、なんとか対策を考えないといけないよね」
「そうだね、これに勝てる作戦を思いつくまでは、ここから動けないな。この住宅街から出た瞬間、襲撃される可能性も十分にあるから」
「……」
ルリスは無言で、先ほどへばりつかれた左頬をさすっている。プレトもしばらくの間、無言で思考を巡らせていたが、結局、何も思いつかなかった。肩にのしかかるような疲労を感じ、口を開いた。
「ストーカーのせいでいつもより睡眠時間が短かったし……仮眠取ろうかな……」
「そうしよう。万が一寝ている間に襲撃されるとヤバいから、交代で寝ようか。プレトが先に寝て。わたしはクライノートに投稿しておくね」
「ありがとう」
プレトはのそのそと助手席に乗り込み、目を瞑った。自分の意志とは関係なく、考えが脳の中を歩き回っている。
……もしも私が天才だったなら、サクサク解決して、ルリスが危険な目に遭う確率も下げられるのに……悔しいなあ……天才ってどこにいるんだろ……

背中を優しく叩かれ、目を開けた。
「私、寝すぎちゃったかな? 仮眠、交代しようか」
そう言いながら振り返ると、いつも幻の中に現れる少女がいた。
「あれ、君か……」プレトはレグルスの外に立っていた。ルリスはいない。
「私は起きているわけじゃないんだね。この状況にもだいぶ慣れたよ」
少女は、もうヘビを持っていなかった。前回噛み砕いたのだから当然かも知れない。それに、今回は靴もきちんと履いている。少女の服装が整っていくのは、なんだか嬉しかった。
「はい、これ。汲んできちゃった」
彼女はそう言って、液体が入ったコップを差し出してきた。
「ああ、ドリンクバーのやつね……今回はEかな? Eってなんだろう……」
「エッグフルーツだよ、カニステルともいうんだって」
「へえ……知らない果物だ」
プレトはそう言って口に含んだ。甘くて、どこか野菜を感じるような味だった。異物は入っていなさそうだ。
「助けてあげるように言われたから来たの。これの対策に悩んでいるんだよね?」
少女は足元に落ちている、アメーバのようなものを拾い上げて言った。
「そうなんだよ……誰に言われたの?」
「内緒」
少女はそう言って、にっこりした。落ち着いているため大人びて見えていたが、こうして笑顔になると、先ほどまで除去作業を手伝ってくれていた子供たちと、何も変わらないように見えた。
「お姉さん、密林で罠にかかったでしょ? そのとき、どうやって脱出したか覚えてる?」
「あのときは……手持ちのものでなんとかしようとしたけど、どうしようもなくて……結局、奇跡的に雷が落ちてくれたから助かったよ」
少女はコクコクと頷くと、再び話しはじめた。
「その何日か前に、雲を食べたことは覚えてる?」
「もちろんだよ。あの後、知らない人たちと合流したから、遠くにオルタニング現象を見かけても、固定できずにいたんだよね。その人たちに殺されかけたわけだけど」
プレトは話しながら遠い目になった。思い出したらイライラしてきたため、手に持っていたジュースを一気に飲み干した。
「それがヒントだよ」
「え? どれが?」
「いま、お姉さんが思い出したこと。雷と、固定した雲」
「……」それらが、この白いビラビラの対策のヒントになるというのか? なにをどうしたら? どうやって?
プレトの頭の中がクエスチョンマークだらけになっていると、少女が口を開いた。
「お姉さんなら大丈夫。またね、35日は飲まないでね」こちらに手を振ると、どこかへ走っていってしまった。
「え、もう終わり? 待って!」

「プレト、大丈夫?!」
目を開けると、ルリスが驚いたような顔でこちらを見ていた。
「待って! って寝言で叫んでたよ。うなされてたの?」
「いや、夢を見てただけ……」
プレトは元の通り、助手席に座っていた。ルリスは操縦席でクライノートをチェックしているようだった。
戻ってきたのか……少女とあまり話せなかったな……残念がっている自分に、自分でも驚いたが……気を取り直し、たった今もらったヒントについて、ルリスに話してみることにした。
「また意味深な夢を見ちゃってさ……」

(第48話につづく)

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