
大川原化工機の社長ら3人が、生物兵器に転用可能な機器を中国に輸出したとして逮捕された冤罪事件で、警視庁は7日、「公安部の幹部による捜査指揮が機能しなかった」とする検証結果を発表した上で、謝罪会見を行いました。
この会見で警視庁は、退職者を含む公安部の歴代幹部あわせて19人について、処分または処分相当としたことを明らかにしました。
横浜市の化学機械メーカー・大川原化工機は2020年、自社の「噴霧乾燥機」について、生物兵器の製造に転用可能であるにもかかわらず、経済産業省の許可を得ずに輸出したとの疑いがかけられました。
噴霧乾燥機(スプレードライヤー)は、液体を霧状にして熱風で乾燥させて粉末にする装置で、食品や医薬品、化学品など幅広い分野で使われています。
公安は、この装置が「生物兵器にも転用可能だ」として、外為法違反(無許可輸出)の疑いで捜査に乗り出し、当時の社長・大川原正明さんら3人の逮捕に踏み切りました。
しかし装置の能力は、生物兵器の製造基準に達しておらず、輸出規制の対象ではなかったことが後に判明し、初公判の直前に起訴が取り消されました。
大川原化工機の関係者に対する取り調べは、1年以上にわたって計291回も行われ、勾留された3人はデータや資料、専門家の意見を提出し、無罪を訴え続けたものの、11か月ものあいだ身柄を拘束されつづけました。
このうち技術顧問の相嶋静夫さんは、勾留中に輸血が必要となるほどの重度の貧血を発症し、拘置所の病院で内視鏡検査を受けた結果、胃がんと診断されました。
しかし裁判官は、「証拠を隠滅するおそれがある」として保釈を一切認めず、病気の判明から1か月後、ようやく保釈を許可しました。
相嶋さんはこの間も病状が悪化しており、保釈から間もない2021年2月、起訴が取り消される前に入院先の病院で死亡しました。
このほかにも、大川原化工機の女性社員が、数十回にわたって取り調べを受けましたが、その結果、うつ病を発症したとのことです。
無罪が認められた大川原正明社長らは、その後、東京都と国を相手取って訴訟を起こし、今年5月、東京高等裁判所の2審で全面勝訴しました。
東京高裁は、1審に続き警視庁公安部と検察の捜査に違法性があったと認定し、都と国に対してあわせて1億6600万円余りの賠償を命じる判決を言い渡しました。
◯大川原化工機えん罪事件 民事裁判 2審も都と国に賠償命じる
こうした一連の流れを受け、迫田裕治警視総監は会見で、「警視庁といたしましては、今回の検証で明らかになりましたように、当時、公安部において組織的な捜査指揮がなされなかったことで、捜査の基本を欠き、その結果、控訴審判決において、違法であるとされた捜査を行ったことを真摯に反省しております。亡くなられた会社の顧問の方、およびそのご遺族の方々には、心から哀悼の意を表しますと共に、本件捜査によって多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて深くお詫びを申し上げます」と謝罪しました。
一方、大川原正明社長らは警視庁と最高検の検証結果について、「あまりにも簡単に逮捕に踏み切ることに対して、どうしても突っ込んでなかった」「事実解明が不十分だなと。誰がどうしたのか、ほとんど解明されていない」「捜査指揮系統の機能不全ではなく、無理な解釈を立ち上げて逮捕したことが最大の問題だ」と批判しています。
再発防止策が徹底され、二度と同じ過ちが繰り返されることのないよう心から祈ります。
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