【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「最終回・冒険の終着点」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「最終回・冒険の終着点」by RAPT×TOPAZ

祝宴が終わり、プレトは礼を伝えた。
「ごちそうさまでした。お腹いっぱいです。胸もいっぱいです」
輝く人を含め、全員が微笑んだ。
『楽しんでもらえてよかった。これからもあなたの身には様々なことが起こるだろうが、何があっても私を頼ればいい。祈ってくれれば全て聞くし、全てを叶える。いつも見守っているよ』
「ありがとうございます。あの、お伺いしたいことがあるのですが⋯⋯これまで、明らかに人間の力では不可能なことが起きて、助かったりしました。ケーゲルに閉じ込められたときは雷が落ちましたし、ワクチンの工場はムイムイハリケーンで壊れましたし⋯⋯それって、もしかして⋯⋯」
輝く人はニコッとした。
「あなたの想像している通りだよ。これからも助けるから、心配しないで」
やはり、あの奇跡的な出来事は、輝く人の力だったのか。プレトたちや国民がピンチだから、天候まで操って助けてくれたのだ。わけも分からないまま、問題に翻弄されっぱなしになっていると思い込んでいたが、知らないところで何度も助けられていたのだ。プレトは改めて礼を伝え、発光している人に案内されながら会場を後にした。会場を出ると、真珠の門まで見送ってもらった。すると、少女が現れ、抱きしめられた。
「ここまで本当にお疲れさま。見えないだろうけど、これからもずっと傍にいるね」
「うん。君がいないと困っちゃうよ。また顔を見せてね」
プレトは抱きしめ返した。すーっと意識が遠のき、目が覚めた。朝日が眩しかった。


大手スーパーで販売されるようになってからも、ムーンマシュマロとステラグミの売れ行きは好調のようだった。スパイク肺炎ワクチンの健康被害や、ディユの悪影響が大勢から消え次第、あまり売れなくなるのではないかと思っていたが、嬉しい誤算だった。身体に悪いものが入っておらず、値段も手頃なので、若者やファミリー層に人気らしい。
「『栄養士監修』って書いたのも効果があったのかもしれないね。ルリスが資格を持っているおかげだ」
「こんなところで役に立つとは思っていなかったけどね。でも、『プレパラート研究所が発明した商品』っていうのも、箔になっていると思うよ」
「じゃあ、みんなで頑張ったおかげか」
「そういうこと」
さらに、大手のコンビニチェーンからも声がかかり、店頭に置いてもらえることになった。売れ行きがいいとの噂を聞きつけたようだ。シュヴァリエ国の方から交渉する予定だったが、向こうから取り引きを持ちかけてくれたおかげで手間が省けた。スーパーには既に卸しているから、流通経路を拡大するだけで済む。コンビニでムーンマシュマロとステラグミを見かけるまでに、さほど時間はかからなかった。
その後、予想外なことも起きた。他国からも、ムーンマシュマロなどを国内で流通させたいとの申し出があったのだ。隣国と取り引きをしていると、たまにディユが紛れ込むから、気を揉んでいたらしい。さらに、プレトたちの国でスパイク肺炎ワクチンの健康被害が拡大している様子を見て、あらかじめ対策を取っておきたいとのことだった。メインで生産しているのはシュヴァリエ国だから、今後、大使館職員たちを交えて他国と交渉することになるかもしれない。これって外交なのかな? プレパラート研究所としては、ムーンマシュマロとステラグミで誰かが助かるならそれでいいのだ。
「この国とシュヴァリエ国だけじゃなく、他の国にも広まっていきそうだね。二人だけでちまちま梱包していたのがウソみたい」
ルリスは感慨深そうだ。最初は一人で全て作っていたのだ。やはり思い入れも大きいのだろう。
「ついこの間のことなのにね。ムーンマシュマロとステラグミ⋯⋯すっかり健康食品みたいな立ち位置になったよね」
「そうだね。安くてどこでも買えて、身体にいい⋯⋯納豆みたいなものかな」
「納豆か。ヨーグルトとかじゃないんだ」
プレトは思わず吹き出した。そのまま続けた。
「⋯⋯レインキャニオンへ出発した時は、何もかも失ったと思ったんだけどな」
「わたしにここに住むように言って、一人で出ていったもんね」
ルリスはおかしそうだ。ルリスさえ失ったと思ったのに、結局、絆は深まったし、新しい仲間も増えた。敵は多かったが、親切にしてくれる人も大勢いた。顔も名前も知らない人たちが、ネット上で味方してくれた。気が付いたら自分の研究所まで設立していたし、所長は罪を償うことになった。全部捨てたつもりだったのに、たくさん得ている。これも全て、輝く人の導きなのだろう。ルリスが切り出した。
「もしさあ、またレインキャニオン往復みたいな冒険をすることになったらどうする?」
「誰かに命令されてってこと? そしたら訴えるかなあ⋯⋯もう、脅しには屈したくないからね。ケンカを売られたら爆買いして、転売するかな。法的に」
「ケンカって法的に転売できるの?」
「さあ? できないんじゃん?」
「ははは。じゃあ、よんどころのない理由で冒険しなくちゃいけなくなったらどうする?」
「よんどころのない理由なら仕方ないかな。頑張るよ」
「そのときはまた一緒に行こうね」
「え、懲りてないの? あんなにひどい目に遭ったのに」
「大変だったし、怖い思いもいっぱいしたけど、レインキャニオンへの道中では、レグルスを長距離操縦できて楽しかったよ。しかも毎日」
「タフすぎる!」
「ヘイルリッパーに愛車を廃車にされたのは残念だったけど、帰りはデザート号をゲットできたし、悪くなかったかな」
「それ、喉元を過ぎたから熱さを忘れてるだけだよ。私が目を覚まさせてあげよう」
ルリスの脇腹をくすぐると、素早く逃げられた。
「プレトはこれからの目標とかあるの?」
「目標か⋯⋯目標というより、やってみたいことはあるかな。オルタニング現象を詳しく調べたいなって思ってる」
「ネットで調べたら分かるんじゃないの」
「それがね、意外と論文が少ないんだよね。ふわっとしてるんだよ、雲だけに」
「⋯⋯」
「聞かなかったことにしてください。雲を固定して食べたりしてるのに、オルタニング現象に精通していないのはまずいんじゃないかと思いはじめたんだ」
「今さら?」
「今さら」
「じゃあさ、味変とかできるようにならないかな。ひつじ雲を食べたらジンギスカンの味がするとか、面白そうじゃない?」
「なんかグロいね」
チユリさんとビケさんが近付いてきた。
「楽しそうね、何の話をしているの?」
「世界征服の作戦会議ですか? わたしも交ぜてくださいよ」
「今後のことを話していただけですよ」
「これからやりたいことですか。不審者対策として、研究所の周りに有刺鉄線を張り巡らしたり、バカでかいトラバサミを設置するとかどうですか」
「なんて物騒な! 死人が出そうですし、私たちまでケガすると思いますよ。マッドサイエンティストの巣窟って、ご近所さんに誤解されちゃう」
「ビケさんの案は斬新ね。私は、科学実験教室みたいなのをやってみるのもいいと思うわ。この研究所は少人数な分、身軽に動けるから色々挑戦したいわね」
「チユリさんの案がまともすぎる。それ、いいですね。学校の冬休み期間に合わせて準備をしたらちょうど良さそうですね」
国立の研究所に勤めていた頃は、収入が安定していることが有り難いと思っていたが、収入は安定しなくても、自分たちのアイディアを実現できる今の方が、私たちには向いているかもしれない。それぞれが思いついたことを話し、盛り上がっているうちに日が暮れた。


翌日、ルリスの声で目を覚ました。
「プレト起きて。とんでもないニュースが流れてるから見てほしいんだけど」
「どのくらいとんでもないの?」
「機嫌の悪い親より何倍もヤバい」
「それは⋯⋯シャレにならないね」
差し出された手を握り、ベッドから勢いよく降りた。新しい日々が始まるのだ。

(おわり)

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