【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第105話・シェヴァリエ国へ」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第105話・シェヴァリエ国へ」by RAPT×TOPAZ

シュヴァリエ国大使館から連絡を受けてから数日が経った。現場の工場長を交え、ビデオ通話を行うことになった。こちらは四人揃って画面に収まっている。パソコンの画面上には、直接電話をくれた大使館職員、そして工場長が、それぞれ別の枠に映っている。合計で六人だ。同じ言語圏でよかった。簡単に挨拶と自己紹介を済ませると、大使館職員が中心になって話を進めてくれた。
「大まかな話しは、先日お伝えしたとおりです。ムーンマシュマロとステラグミをシュヴァリエ国で生産して、お互いにメリットを享受しようというわけです」
「プレパラート研究所を見付けてくださったのは、どなたなのでしょうか」プレトは質問した。
「外交官の一人が、SNSで見かけました。そこから本国の方へ話が届き、政治家たちが生産ライン提供の案を出してきたんです」
「政治家まで話が行ってるんですね⋯⋯」
シュヴァリエ国の政治家には、血の気が多い人物が多いらしい。その上、国のトップは元軍人だ。そのような人たちがマシュマロとグミを欲しがるなんて⋯⋯なんだか微笑ましいような、恐ろしいような……そんな気分だった。
大使館職員は、現在の販売価格を維持できるようにすると言ってくれた。プレトは胸をほっと撫で下ろした。値段が上がったら、必要としている人に届かなくなるかもしれないと心配していたのだ。次に、工場長が話し出した。
「先日、大使館職員と話したのですが、一度、工場見学にいらしてはどうですか?」
「⋯⋯現地視察ということですか?」
「はい。こちらで工場内を撮影して映像を送ることもできますが、それだけですと、設備の細部とか従業員の空気感は伝わらないと思いますので、実際に見ていただいた方がいいのではないかと思いました」
シュヴァリエ国まで行くのか⋯⋯見学もせずに外国の施設に委ねるのは心配だし、レシピの発案者として見に行くことが責任ある行動なのかな。
プレパラート研究所のメンバーで話し合い、プレトとルリスが向かうことにした。工場の見学だけだから、観光ビザで行けるらしい。突然、ビケさんが挙手した。
「質問なのですが、プレパラート研究所からシュヴァリエ国の工場までは、陸路で数日かかってしまいます。船でも遠いですし、この時間ロスは痛いかなって思いました」
「確かにそうですね。いまムーンマシュマロなどの販売が遅れるのはよくないですよね。どうしようかな⋯⋯」
今度はルリスが手を挙げた。
「飛行物体を所持しているのですが、それで海を越えてシュヴァリエ国にお邪魔することは可能でしょうか? それなら片道数時間で行けます」
「その飛行物体は、プレパラート研究所で製造なさったものですか?」
「いえ、不法投棄されていたものを拾っただけです。燃料はパラライトアルミニウムで、武器や火薬の類は積んでいないので、シュヴァリエ国の脅威にはならないと思います。でも、関所を通過しないと不法入国扱いになるのでしょうか?」
「確認してきますので、少々お待ちください」
大使館職員は席を外したが、すぐに戻ってきた。
「本国と連絡を取ったのですが、軍の施設に直接来ていただけるなら、飛行物体での入国も許可できるとのことです」
「軍の施設ですか!」プレトは驚きの声を上げた。
「国のトップが元軍人なので、そこなら融通が利くんです。ですが、条件がありまして、機体のどこかに『プレパラート研究所』とペイントしていただきたいのと、飛行物体の写真を事前にこちらへ送っていただきたいと思います⋯⋯誤って撃ち落としてしまわないために⋯⋯」
「怖いですね⋯⋯分かりました。工場見学をした時点で、シュヴァリエ国で生産するという提案を飲んだことになりますか?」
「そんなことはないですよ。見学してから判断していただきたいということです」その後も、プレトの方からいくつか質問したが、大使館職員と工場長はすべて丁寧に答えてくれた。
シュヴァリエ国で生産した分の、利益分配についても提示された。足元を見られているような割合だったが、特に損はしないし、国中に流通させられるというメリットの方が遥かに大きかった。さらに大使館職員は、プレパラート研究所でも引き続き生産していいと言ってくれた。リピーターの中には、信頼できるプレパラート研究所から購入したい人もいるだろうからと配慮してくれたのだ。プレトたちの方からは、『無断でレシピをいじらない』『ムーンマシュマロなどに関するプレパラート研究所からの要求は、可能な限り受け入れる』といった条件を提示したが、相手は元々そのつもりだと言ってあっさり飲んでくれた。
「重要な話はほとんどできたと思いますが、いかがでしょうか。検討していただけますでしょうか?」
「はい。ここまでのお話には、こちらは全員納得しています。ぜひ前向きに検討させてください。工場にもお伺いします」
詳細な日時は後ほど決めると約束し、今回のビデオ通話は終了した。


その後、数日間でパスポートの発行とデザート号のペイントを済ませ、出発の準備を整えた。プレトとルリスがデザート号に乗り込むと、チユリさんとビケさんが庭まで見送りに来てくれた。
「プレパラート研究所も、生き物たちのことも任せてちょうだい。気を付けて行ってきてね。何かあったらすぐに帰ってきてね」
「墜落しないでください! ボンボヤージュ!」
「海の藻屑にならないように気を付けまーす!」
ルリスは元気に返事をすると、デザート号を浮遊させ、すぐに最高速度を出した。すぐに海が見えてきた。波間の眩しさに、瞳孔が縮むのを感じた。さらにその数時間後には、海岸が視界に広がった。あれがシュヴァリエ国だ。ルリスは、指定された場所にデザート号を着陸させた。様子を見ながらプレトが先に降りた。軍服らしき服を着た人たちが駆け寄ってくる。プレトは恐る恐る挨拶した。
「プレパラート研究所から参りました。プレトと申します。こちらに着陸するようにと指示をいただきました」
⋯⋯挨拶ってこれでいいのかな? ルリスも降りてきて、似たような挨拶をした。その中の女性が名乗り出た。
「私が案内役です。工場までお連れしますね。その前に、身体検査と手荷物検査をさせてください」
「へ? あ、はい」
気の抜けた返事をすると、案内役に身体中をペタペタ触られた。関所で確認できなかった分、ここでやっているのだろう。案内役はルリスの身体検査も済ませると、持ち物を覗いた。質問される度に答えると、手荷物検査も合格となった。
「ご協力ありがとうございます。では、今度こそ案内しますので、レグルスに乗ってください」
促されるまま、レグルスの後部座席に乗った。出発してから十数分で、工場に到着した。想像より巨大で圧倒された。案内役についていくと、工場長が出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました! ここから先は衛生服を着ていただくことになります。服の上からこれを着用してください」
全て身に着けると、お互いを体形と目の色くらいでしか判別できなくなった。衛生管理は徹底されているらしい。工場見学が完了し、工場長と別れると、ルリスは感想を口にした。
「すっごく広いし綺麗で感動したよ! 良いところに声をかけてもらえてよかったね」
「思ったより大規模で驚いたよ。ここで作ってもらえるなら安心だよね」
案内役が口を開いた。
「これから大使館職員と連絡を取るのですが、この後の予定がなければ、お二人も参加していただけませんか? 感想などもぜひ伺いたいので」
「何の予定も無いので、ぜひ参加させてください」
工場内の空き部屋に移動した。おそらく会議室か何かだろう。案内役がビデオ通話を始めた。プレトは大使館職員に感想を伝えた。
「ここで作っていただけるならとても嬉しいです。シュヴァリエ国も初めて来ましたが、街並みが私たちの国と似ていて安心感があります。治安も良さそうですよね」
「それは良かったです。工場は見ていただいたように問題ないのですが、治安の方では少し気がかりなことがあるんですよ。怪しい組織が、プレトさんたちの国からケーゲルを購入したという情報が出回っていまして⋯⋯」
「所長がやらかした密売ですか?」
「それです。確か、あなたはその件に関する裁判に参加していましたよね?」
「はい。それについて知ったせいで殺されかけたので⋯⋯ケーゲルの密売について漏らしたのは私です」
「なるほど、そうでしたか。では、所長を国際的に裁くという動きはご存じですか?」
「いえ、それは⋯⋯初耳です」
「やっぱり情報統制されていますね。シュヴァリエ国では大きな話題になっているんですよ」
思わずルリスと目を合わせた。知らない間に所長の件で進展があったらしい。しかも外国で。ルリスがゆっくりと切り出した。
「あの⋯⋯もう少し詳しく教えていただけませんか?」

コメントを書く

*
*
* (公開されません)

Comment