【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第99話・解毒効果」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第99話・解毒効果」by RAPT×TOPAZ

プレトたちは、〈サバグル〉の言う通りにカメラのセッティングを行った。
「プレトさん、ハンディカメラで、横から撮ってもらってもいいですか? 別角度からの動画もあったほうがいいんで⋯⋯皆さんは動画に映りたいですか?」
三人は首を横に振った。
「控えめだなあ。うーっ、吐きそう⋯⋯それじゃ、撮影を始めますね⋯⋯」
〈サバグル〉は苦悶の表情を浮かべたまま、カメラに向かって話しはじめた。
「昨晩食ったディユ入りチョコレートが効いてます⋯⋯すんげえ具合が悪いです。もうムリ、ディユ半端ないって⋯⋯ここで、プレパラート研究所さんが開発した⋯⋯ステラグミを食べてみたいと思います。これを食べると、ディユの毒性を打ち消すことができるらしいです。効果がなかったら、俺は病院送りっす」
〈サバグル〉はミカン味のステラグミを口に入れ、咀嚼した。
「吐きそうでも、美味いもんは美味いっすね⋯⋯」
飲み込んでからも、ブツブツと苦しそうに味のレポートをしていたが、急にハッとした表情になった。
「あれ、なんか、身体が軽くなったかも。とりあえず吐き気は収まりました。既に汗かきまくったからよく分かんないけど、汗も止まったような気がします」
〈サバグル〉は、その場で何度か飛び跳ねて見せた。
「おー! すげえ元気なんですけど!」
先ほどまで真っ青だった顔に血が通い始め、日に焼けた健康的な色に変化した。側転まで始めたため、三人ともヒヤヒヤしたが、〈サバグル〉はカメラに向かってハツラツと言い放った。
「ステラグミの解毒効果は本物です! 即効性もすんげえ! 信じたくない奴は信じなくていいけど、ディユ入りのチョコで苦しんでる人は試してみてね。ステラグミは、薬じゃなくて食品だから、誰でも食べれますよー。ショップのリンクは概要欄に貼るし、クライノートでも投稿するからチェックしてくださいね」
流れるようにステラグミを紹介している。さすが動画投稿者だ。〈サバグル〉は軽快に話しつづける。
「それで、大事な情報なんですけど、ディユ入りのチョコは隣国の35日っていう起業が大元の開発者だから、ガチで注意して! それと、大きい研究所がディユをサマーブロッサムとして流通させようとしてるらしいから、それにも気をつけて! 間違って食べちゃったら、ステラグミをゲットして!」
そこまで説明すると、いつも通りの挨拶で動画を締めくくった。
「三人ともお疲れさまでーす」
「私たちは何もしていないけど⋯⋯本当に元気になったのかしら」
チユリさんは心配そうだ。
「むっちゃ元気です! 動画もいい感じに撮れてますね。プレトさんのハンディカメラもバッチリです」
ルリスが口を開いた。
「35日のことまで話してくれるんですね。わたしたちだけじゃ情報拡散するにしても限りがあるから、すごく助かります」
「だって、本当のことですもんね。35日の関係者とかがつついてくるかもしれないですけど、気にしなくていいですから。今回の動画、すげえバズりそう」
プレトは口を挟んだ。
「お調子者すぎる⋯⋯今回は助かったから良かったですけど、もうこんな無茶しないでくださいね」
「了解っす! 帰って動画を編集するんで、今日中にはアップできると思います。メインで撮ったのを俺の方で、プレトさんがハンディカメラで撮ってくれた方を〈プレパラート〉で投稿する感じでもいいですか? 全部こっちでやってから動画を渡すので、プレトさんたちはアップするだけで済みますよ」
「コラボについてはよく分からないので、お任せします」
プレトは〈サバグル〉と連絡先を交換した。
「そんじゃ、また連絡しますね。お疲れっしたー」
〈サバグル〉は意気揚々と自身のレグルスで帰っていった。
「なんだか、ハラハラしているうちに終わったね」
ルリスは呆けたような顔をしている。
「そうね⋯⋯でも、〈サバグル〉さんの方で編集してくれるのはすごく助かるわね。私たちも帰ろうか」
チユリさんのレグルスで帰宅し、発送作業などをしていると、夕方に〈サバグル〉から動画とメッセージが送られてきた。
『今日はありがとうございました。すっかり元気ですよ! この動画でよければ、好きなタイミングでそのままアップしちゃってください』
三人で動画を観てみると、冒頭にディユ入りチョコを食べる様子が挿し込まれていた。その後、公園で苦しんだりはしゃいだりする〈サバグル〉が映っている。横からのアングルで撮られているため、”動画撮影の裏側”といった雰囲気が出ていた。うまく編集されているので、そのまま各種SNSに投稿した。動画投稿サイトをチェックすると、彼もメインのカメラで撮ったものを投稿していた。
「反応が楽しみだね。今度はなんて言われるかな」
「シャドウバンじゃなくて、本当にバンされちゃったりして」
ルリスと会話していると、〈アネモネ〉からもメッセージが届いた。動画が添付されている。

『前回より時間がかかっちゃいましたが、ルリスさんの歌を編集しました。良さそうだったら使ってください』

「お、今回も素敵に編集してくれてる! さすがだ。いつ投稿しようか?」
「出し惜しみする必要もないから、投稿しちゃってもいいと思うな」
「了解」
プレトは〈アネモネ〉が送ってくれた動画も投稿した。
「今日は動画を頑張ったね⋯⋯あれ、頑張ったっけ?」
「割と他力本願だったね。でも、ルリスは歌ったわけだし、頑張ったんじゃないかな。SNSの反応は明日チェックしようね」
翌日、ルリスとチユリさんと共にSNSを確認すると、ステラグミやディユ、35日の情報について様々な反応が飛び交っていた。〈サバグル〉が動画を投稿した影響であることは間違いない。普段自分たちだけで情報拡散するときよりも遥かに多い人数からリアクションがあった。既にステラグミの注文も沢山来ている。〈アネモネ〉が作ってくれた歌の動画も、相乗効果で普段より見られているようだ。同時に投稿したのは正解だった。
「みんなのコメントを見る限り、ディユ入りチョコレートのせいで体調を崩した人は注文してくれているみたいだね」
「藁にも縋る気持ちかな。早く届けたいね。今回の注文分は在庫で賄えるから、さっそく梱包しよう」
ルリスは張り切っている。寄せられたコメントは、応援や驚きの声が多いが、中には35日を擁護する内容もあった。35日のアカウントに対して、〈プレパラート〉を名誉毀損で訴えた方がいいのではないかと、わざわざコメントしているユーザーまでいる。
「ディユが入っているのは一目瞭然だし、被害だって拡大しているのに、なんでこんなかき乱すようなことするのかな。初めて情報を見た人が混乱しちゃうでしょうが」
不自然に35日の味方をし、明らかにこちらを敵視しているユーザーを見ていると、どうしようもなく腹が立つ。画面をスクロールしていると、〈サバグル〉から電話がかかってきた。
「お互いにバズってますね! 荒らしも湧いてますけど、大丈夫ですか? ああいうのは気にしないのが一番ですよ」
「何をしても文句言われるのって、うんざりしますね。苦しんでいる人が誤情報に惑わされたらと思うとしんどいです」
「アンチって、ほんと粘着質だからなあ。ガムテープとして生まれていれば優秀だったかもしんないですね。あはは。まあ実際、プレトさんたちに対する誹謗中傷を、真に受けてる第三者って少ないと思いますよ。プレトさんは俺に集まってる誹謗中傷をチェックしましたか?」
「そういえば見てないです」
「でしょ? 発信者がどういう奴かっていうより、発信している情報が真実なのかどうかっていう方が、見ている人にとっては大事だと思うんすよね。どうせ腹の中なんて分かんないし」
「意外といいこと言いますね」
「こういう活動をしていると、イヤでもそういうマインドになりますよ。情報って、必要としている人に届くもんだと思ってるんで、これから大勢が助かるって信じてます。そういえばですけど、プレトさんたちって裁判するんですか? 前に所長がどうのこうのって投稿していましたよね」
「⋯⋯そういえばそうだった。来月ですけど、あと一ヶ月ないや⋯⋯」
「クソ忙しいですね! 頑張ってください! いえーい!」
通話を終え、これからやるべきことを頭の中で整理した。心臓のあたりが冷えてくる。
「どうしたの」
ルリスが不思議そうに寄ってきた。
「夏休みの宿題のペース配分をミスって、最終日に絶望しているような気分だよ」
「なんで? 情報発信は概ねうまくいってるし、注文だってたくさん入ってるよ?」
「だからでしょ。バイマトさんのスケジュールに合わせる必要もあるから、そろそろ裁判の準備をしないといけない。命令書が届いてからこれまで何が起きたか、順番に書き出して整理したいけど、私だけだと絶対に記憶違いがあるから、ルリスと一緒にやりたいんだ」
「もちろん一緒にやろうよ」
「でも、販売作業と同時進行はすごく難しいし、ムーンマシュマロとステラグミを作りながらはほぼ不可能だ。レンタルキッチンに行かなくちゃいけないからね。ルリスの手が裁判の方に取られると、生産が間に合わなくて、助けられるはずの人を助けることができなくなるかも。チユリさん一人に丸投げするのはムリがありすぎるし」
「⋯⋯つまり、人手が足りないってこと?」
プレトが頷いて見せると、ルリスは頭を抱えた。
「確かに、これまでもキャパシティ的にはギリギリだったもんね。ここにきて初歩的な問題にぶつかるとは⋯⋯分身できる薬とか作れない?」
「さすがに作れない!」
いくらルリスのお願いでも、それはムリなのだ。

(第100話につづく)

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