【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第96話・新たな味方」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第96話・新たな味方」by RAPT×TOPAZ

ソファにいるルリスの隣に座り、話しかけた。
「無職で過労死したらどうする?」
「面白すぎるからニュースになってほしいかな」
「倒れないように気をつけないとね。あ、チユリさんから電話だ」
プレトは電話に出ると、研究所がディユを流通させようとしていることについて尋ねた。
「そのことを伝えようと思って電話したの。さすが、もう知っているのね。研究所ったら、全体に対する情報共有もしていないのよ。沢山の部署があるから、何でもかんでも共有するわけじゃないけど、新しい製品を流通させるなら、一言あってもいいと思わない?」
「思います。そして流通をやめてほしいです」
「ほんとそうよね。ちなみにね、粉末状にして市場に流すつもりらしいわよ。隣国ではスパイスとして使っているようだから、それと同じ形状なのかな?」
「はい。隣国では主に、ディユを粉末にして使っているって学校で習いました。ココアパウダーみたいな見た目をしています」
ルリスは答えた。
「そうなのね。粉々だからサマーブロッサムと偽ることも簡単ってわけか。うーん、厄介だわ。ネット上で突然、『研究所のサマーブロッサムは、本当はディユなんだよ』って言ったところで、信じてくれる人はいるのかしら」
「難しいかもしれません。サマーブロッサムじゃないっていう証拠になるような情報を提示しないと⋯⋯」
ルリスはしょんぼりと言った。
「そうだ、偶然見つけた情報なんだけど、サマーブロッサムの可食部は、蜜袋の中の蜜だけらしいわよ。茎や葉は美味しくないって動画で話していたわ」
「その情報が本当なら、蜜をわざわざ乾燥させて、粉末にして売り出すのは不自然だと主張できそうですね。どこで手に入れた情報ですか?」
「動画投稿サイトで活動している人の情報だったわ。〈サバグル〉って名前だったと思う。サバイバルグルメの略称とかなんとか⋯⋯その辺で拾ったものを食べる動画を多く投稿している人よ。サマーブロッサムを採取する動画の中で話してたわ」
「わたし、その人知ってます。定期的にバズってて、料理動画も上げてるから、たまにチェックしてます」とルリス。
「ルリスは知ってるんだ。どんな印象の人なの?」
「とにかく陽気な感じ」
「プレトさんたちがディユの情報拡散をするとき、その動画を引用してもいいか、本人に訊いてみたらどうかしら」
「他の活動者とのコラボ動画も結構上げてるから、コンタクトを取ること自体は大丈夫だと思う。わたしたちの発信している情報をどう捉えるかは分からないけどね」
プレトは考えながら話し出した。
「うーん、なるほど⋯⋯〈サバグル〉がこちらのアンチになってしまったとしても、既にアンチだらけだから気にすることではないし、うまくいく方に賭けてみるのもいいかもね。チユリさん、教えてくださってありがとうございます。その人にDMしてみます」
「うまくいくといいわね!」
チユリさんとの通話を終え、クライノートで〈サバグル〉のアカウントを検索した。挨拶のDMを送ってみると、テンポ良く返事が返ってきた。

『〈プレパラート〉さんだ! こんにちは! 数日前に洗剤買いましたよ』
『ありがとうございます。嬉しいです! お伺いしたいことがあって、DMしたのですが⋯⋯』
プレトは、研究所がディユをサマーブロッサムとして流通させようとしていることについて説明し、〈サバグル〉が投稿している動画を引用してもいいか訊いた。
『つまり、ディユの危険性を拡散するために、俺の動画を使いたいってことですよね? ウソつきからみんなを守りたいってことですか?』
『そうです。元気な人が口にしても危険なのに、ただでさえスパイク肺炎ワクチンで健康を害している人が摂取したら、本当にまずいことになります』
『なるほど。いいですよ。〈プレパラート〉さんは有名人だし、俺の情報を引用してくれたら、こっちももっとバズりそう』
あっさりと許可をもらえたため、プレトもルリスも驚いた。胡散臭いと言われるかと思っていたのに。
『いいんですか? お願いしておいてアレですが、私たちは敵が多いんです』
『俺だってアンチコメント大量に来るし、自宅に凸られたこともありますよ。敵がいるのは有名な証拠ですよ。それに、元々ワクチンは不要だと思ってる派なんで、〈プレパラート〉さんがワクチンの危険性を訴えているのには賛成なんです』
『そうだったんですか』
『俺の周りにはそういう人が多いですよ。ディユの危険性も分かりましたし、俺の動画でよければ使ってください』
『本当にいいんですか?』
『〈プレパラート〉さんって、個人情報が出回ってるプレトさんですよね? 殺されかけたのに、みんなのために活動している〈プレパラート〉さんと、証拠隠滅のためにプレトさんをパラライトアルミニウムに沈めた研究所、どちらを信じるかと言われたら、明らかにプレトさんの方ですよ。俺、悪い奴らの派閥とか、それぞれの思惑とかよく分かんないけど、〈プレパラート〉さんが正直者なのは分かります』
『ありがとうございます』
『それに、カスタードルフィンの子供を保護した投稿も見ましたよ。俺、めっちゃカスタードルフィン好きなんですよね。生き物に優しくできる人に悪い人はいませんって! 俺も〈プレパラート〉さんの情報を拡散しますから、一緒に頑張りましょー! なんかあったら、お互いにDMしましょうね』

「許可、もらえたね」
「やっぱり、陽気な感じの人だね。協力してくれるみたいで本当によかった。これで、サマーブロッサムの表記がウソってこと、信じてもらいやすくなるね」
ルリスの声に安堵が含まれている。
「早速だけど、ディユについてクライノートに投稿するね。内容って、今までとは被らないほうがいいのかな」
「新しい人も見てくれるだろうから、内容は被ってもいいと思う。大事なことは何回言ってもいいでしょ」
プレトは、研究所がディユをサマーブロッサムと偽って流通させようとしていることや、耐性のないこの国の人間がディユを口にすると、体調を崩す可能性があることを投稿した。一緒に、部長補佐たちが販売しているチョコレート製品にディユが含まれていることも書き込んでおいた。
少し時間が経ってから確認すると、閲覧数が伸びていた。シャドウバンされているはずだが、ここまで伸びるならシャドウバンやインプレッション数の操作もあまり意味を成していないかもしれない。拡散してくれるフォロワーたちのおかげだ。チョコレート製品については、既に被害者の声もネット上に出回っているからか、ディユの情報を受け入れるユーザーが多いようだった。〈プレパラート〉の投稿についたコメントを斜め読みしていると、見覚えのあるユーザーを見付けた。
「ねえルリス、〈ゴライアス〉がまた文句を言ってるよ」

『ムーンマシュマロの売り上げを伸ばすためにチョコレート製品のアンチをしているんだろ。銭ゲバビジネスをしている〈プレパラート〉の投稿に引っかかる奴らは低脳を晒す低学歴だ』

「みんなは引っかかっているんじゃなくて、たまたまこの投稿を見かけただけなんだけどね。いちいち突っかかってくるのはあなたなのに。暇そうだから、ちょっと相手してあげる?」
「そうしようか」プレトは〈ゴライアス〉に返信した。

『ディユは本当に体調不良を引き起こす可能性があるので、そのままお伝えしているだけですよ。ムーンマシュマロの購入も強制していませんし、欲しいと思ってくださった方にお届けしたいだけです』

『低学歴層をカモにし、デマを流し続ける犯罪者〈プレパラート〉は現代社会の痴れ者。それに洗脳される奴らは哀れな存在』

要領を得ない返信が返ってきた。定型文でも打ち込んでいるのだろうか。すると、〈ゴライアス〉との会話に〈サバグル〉が割り込んできた。

『〈ゴライアス〉さーん。サマーブロッサムは蜜以外ガチで苦いんで、食えたもんじゃないんですよ。実際に食べたんで間違いないっす。サマーブロッサムを粉末にして売るなんてムリです。〈プレパラート〉さんが引用してくれてる俺の動画、観てくださいね! チャンネル登録もよろしくでーす』

こちらの味方をしてくれたようだ。ルリスと共に驚いていると、〈サバグル〉からDMが来た。

『〈ゴライアス〉っていうアカウント、学歴コンプ丸出しでウケますね』
『援護射撃ありがとうございます。でも、お会いしたこともないのに、どうしてこんなに味方してくださるんですか?』
『こういう類の連中、俺のとこにもイヤがらせしてくるんですよ。バズる度に痛くもない腹を探ってきたり、罵詈雑言を書き込むクソ野郎は湧いてくるもんなので、活動者仲間が一方的に痛めつけられてるのを発見したら、フォローすることにしてるんです』

「そういうことか。私たちの話しには信憑性があるし、こちらの活動を見て仲間意識を持ってくれたのかな」
プレトは呟いた。
「ありがたいね。でも、勝負はここからだよ。ディユのこと、なんとかしないと! 所長との裁判までの間になんとかできたら格好いいよね」
ルリスは右手の親指を立てて見せた。

(第97話につづく)

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