【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第41話・この国の組織形態」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第41話・この国の組織形態」by RAPT×TOPAZ

ルリスが目を覚まし、唸りながら起き上がった。
「とんでもない体勢で寝ちゃった……プレト、少しは元気出た?」
「おかげさまで」
プレトは、幻の中で少女からもらったヒントを、ルリスに一通り話した。ただし、あくまでも『夢』としてだ。不必要に怖がらせたくはない。ルリスは不思議そうな顔をしながら言った。
「わたしがのど自慢大会に出場する夢を見ている間に、プレトはそんな意味深な夢を見ていたなんて!」
「見る夢は選べないから……すごく鮮明だったし、女の勘が働いたのかな……なんて」
本当は全て少女のおかげだけど。プレトは自分の携帯電話を確認してうなだれた。
「まだ全然直っていない……クライノートも使えないままだ……ルリスのほうは?」
「使えないままのアプリもあるけど……クライノートは投稿できるようになってる! やった!」
アカウントを共有しているので、ルリスの方で投稿ができるのなら問題ない。二人は胸をなでおろした。しばらく待機していると、ムイムイハリケーンがかなり離れていったのが分かった。風もだいぶ弱くなっている。
「ようし、先に進みますか!」
ルリスはそう言うと、レグルスのエンジンボタンを押し、ゆっくりとバックさせる。器用に洞窟から抜け出すと、木々の間を縫って進み、小山から出た。
ところが、道路に入ったところで、パトカーが急に近付いてきた。サイレンは鳴らしていない。
「ハリケーンで、なにか被害があったのかな」と、ルリス。
「そうかもね、看板が飛んでいたくらいだから」
気にせず走行していると、パトカーが後ろからスピーカーを通して停車するように指示してきた。
「え、なになに? わたし、違反しちゃった?」
ルリスが戸惑いながらレグルスを停めると、パトカーもそのすぐ後ろで停車し、中から二人の警官が出てきた。ルリスは操縦席の窓を開ける。
「ちょっといいかな」
警官が近付いてきて言った。
「はい……」
「こんなところを走って、どうしたの?」
「隣町に移動しているだけです」
ルリスが不安そうな顔をしながら答えた。こんなところとは言っても、この道は工業地帯の街から次の街まで行くメインルートのはずだ。道路だって整備されている。そんなに不自然かな?
「女性二人で?」
「はい。遭難者の捜索をしているんですか? 私たちが見た限りでは、他に人はいませんでしたよ」
プレトも会話に参加した。
「いや? 怪しいピンクのレグルスがいるって通報があったから、パトロールしていたんだよ。君たちのことだよね?」
「ええ!」
なんだそれ! そもそもこの辺りには、住居がほとんどないのだが……誰にも会っていないし……ただ走ってるだけだし……
「あの小山から出てきたように見えたけど、何をしていたの?」
「湖のほとりで野営をしていたら」と、ルリスが答えた。「ムイムイハリケーンに巻き込まれたので、急いで小山に避難しました。レグルスごと洞窟の中に入ってやり過ごしたんです」
「どうして救助を呼ばなかったの?」
「被害は出ていないですし、ハリケーンの電波障害のせいで携帯電話の通話機能が使えなくなっていました」
「ふーん……」
警官はなぜか不満そうにしている。本当のことを話しているだけなんだけどな……なんだかイヤな空気だ……
「なんか変なことしてたんじゃないよね? 若い子って、迷惑行為をSNSに上げたりするんでしょ。君たちもそうなんじゃないの?」
……SNS? なぜ急にSNSの話しをするのだろう。ルリスがこちらに顔を向けた。犬のフンを踏んづけてしまったような表情をしている。プレトが代わりに話すことにした。
「何もしていないですよ。迷惑行為の投稿もしていませんし」
「それなら、見せてくれる?」
いくら説明してもしつこく食い下がってくるので、プレトは諦めてクライノートの画面を提示した。ムイムイハリケーンの影響でアカウントが消えている状態だから、警官にはもともとアカウントを作っていないように見えるだろう。投稿内容を見られるのは少し抵抗があるし、好都合だ。
警官はそれらを確認すると、困惑したような顔になり、二人でコソコソと会話を始めた。うまく聞き取れなかったが、「人違いか?」「どういうことだ?」といった、短い言葉は聞き取れた。どういうことか知りたいのは、むしろこっちだ。
「それにしても、あんな何もない小山に出入りするなんて、何か隠し事してない?」
「さっきも言いましたけど、避難しただけです。あの小山は国有地かなと思うのですが……国民が災害から身を守るために入るだけなら、悪いことではないと思いますけど」
「でもねぇ……怪しいものは怪しいよ」
なぜかは分からないが、警官はこちらを怪しい人物として特定したいように見える。プレトは痺れを切らし、言いたいことを言った。
「災害から避難すると、不審者扱いされてしまうんですか? SNSまで見せたのに、ここまで言われないといけないんですか? 街とこの場所はだいぶ離れていますけど、おまわりさんはどこから来たんですか?」
「駐在所からだけど……」
この後も同じような問答を繰り返していくうちに、警官は気怠い雰囲気を漂わせはじめた。『面倒くせえな』と顔に書いてある。そして終いには、
「早く行きなさい、怪しい行動は慎むように」
と言って、こちらを追い返すような仕草をした。これにて職務質問は終了のようだ。警官が離れると、ルリスは再びレグルスを発進させた。
「今のくだりは、なんだったんだろうね。わたしたち、警察と相性悪いのかな。毎回、様子のおかしい警官に遭遇してる気がするよ」
友人は眉をひそめて言った。
「そうかもね。それに、彼らのほうがよほど怪しいと思うけど」
「だよね。あー、何もしていないのに疲れた。パトカーには、工業地帯の街の名前が書いてあったけど、そこの管轄の駐在所から来たってことだよね?」
「そうなるだろうね。駐在所も遠そうだし、わざわざご苦労さんだ」
もちろん、労いの言葉ではない。単なる皮肉だ。
「誰が通報したんだろう。この辺、誰もいなさそうなのになー」
ルリスはそう言って口を尖らせた。プレトはふと思い立ち、携帯電話で警察庁について調べてみた。警察の組織図を発見したが、駐在所は下の方に位置していることが分かった。先ほどの警官たちも、上からの命令には逆らえないのだろう。ホームページには他にも、防犯についての呼びかけや、レグルスを操縦する際の注意事項、小学生向けの作文コンクールなどの情報が掲載されている。その中に、気になるものがあった。開発中の新型防犯装置についての情報だ。簡単なイラストしか載っていなかったが、見覚えのあるものだった。
「これ、密林で嵌まった罠じゃん……」
「どれどれ?」
プレトは画面をルリスに向けた。操縦中のルリスは、画面に視線を動かした後、面食らったように声を上げた。
「これってあれじゃん! 私たちが捕まったやつじゃん!」
「やっぱりそう見えるよね」
「これはなんなの?」
「警察庁のホームページには、新型防犯装置って書いてある」
「あれが? 拷問器具の間違いじゃないの?」
「開発中ってことは、私たちは試験に使われたのかな……なーんて、ははは……」
口に出すと、本当にそのように思えてきて、虚しくなった。ルリスが独り言のように話しはじめる。
「えーっと……あの円錐型の機械を作ってる企業のスポンサーには、製薬会社も入っていたよね? ということは、製薬会社と警察庁も関係が深いってこと?」
「……そうなるかも」
「さっきの職質も、SNSがどうこう言っていたのも、わたしたちの旅の様子がバズっているから、偵察しろって言われて来たのかな……製薬会社はクライノートのスポンサーでもあるし……」
プレトはなんだか頭が痛くなってきた。こんなところで、こんな意外な繋がりが見えてくるなんて……この国の組織形態は、一体どうなっているのだろう。

(第42話につづく)

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