【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第73話・営業妨害」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第73話・営業妨害」by RAPT×TOPAZ

〈ゴライアス〉の投稿に対してコメントを書き込み、少し経つと返信が来た。
『ムーンマシュマロのせいで、腎臓に機能障害が現れたと聞いた。腎不全らしい。一体どう責任を取るつもりなんだ』
それを見たルリスが、呆れたような声を出した。
「腎臓? いやいや、ウソが下手すぎるよ。ムーンマシュマロは世に出したばかりなのに」
「腎臓の機能障害ってなんだろ。検索したら、”腎臓の働きが低下して、老廃物をきちんと体の外へ出せなくなる状態”って出てきたよ。身体がむくむとか、夜間頻尿とからしい。ムーンマシュマロでそんな症状が出るわけないよね。私たちはどこもむくんでないし、夜中もトイレに起きたりしてないし。病院で診断されたのかな? ヤブ医者かな?」
「100歩譲って腎臓が機能障害になるとしても、公表して3日目で症状が出るのはおかしいよ。今度はわたしが返信してみるね」
ルリスがクライノートに書いた。
『もっと具体的に症状を教えてもらえますか?』
『だるいと言っていた』
『風邪の可能性はありませんか?』
『ムーンマシュマロを食べた直後にだるくなったんだから、ムーンマシュマロが原因に決まってるだろ。責任取れよタコ』
確かに、腎不全の症状にだるさは含まれているようだが、それだけでムーンマシュマロが原因と言えるのか? 少しつついてみようと思い、今度はプレトが返信した。
『そのようにお考えなのですね。話は変わるのですが、スパイク肺炎ワクチンの接種後に体調を崩す人が出ているようですが、薬害はあると思われますか?』
『スパイク肺炎ワクチンは安全だろ。どうせ接種前から具合が悪かった奴らがビービー喚いているだけだ。そんな奴らの話を真に受けるのは猿くらいだろ。お前らは以前からワクチンを悪く言って人々を惑わしていたよな。ゴミ陰謀論者が作るものは、やっぱりゴミってことが証明されたな』
『先ほど、ムーンマシュマロを食べた直後にだるくなったから、ムーンマシュマロが原因に決まっていると仰っていましたが、ご自身の発言に矛盾があることに気付きませんか?』
返信の勢いが止まった。どう言い返すか考えているのかも知れない。
「こんなのに引っかかるなんて、想像していたよりも遥かにポンコツだね」
「何も考えずに書き込んでいるのかも。でも、暇人の相手って大変だね」
ルリスが口を尖らせた。しばらくすると返信が来たので、引き続きプレトが対応した。
『ムーンマシュマロが安全だという証拠はあるのか』
『液体検査装置で調べましたが、危険な成分は検出されませんでした。我々も大量に食べていますし、動物実験でも異常は見付かりませんでした』
『動物実験をしたのか。動物虐待だ!』
『内容物を少し舐めてもらっただけですよ。動物たちも我々も、みんな元気にしているのでご安心ください』
『動物を自分の利益のために利用するなんて、人間として終わってる。陰謀論者は人格が歪んでいるな』
「うわあ、今度はこう来たか」
プレトは自分でも信じられないほど、大きなため息をついた。
「どうにかして揚げ足を取ろうと必死なんだね」
突然、他のアカウントからも、動物実験に対する中傷コメントが集まってきた。動物実験という言葉の聞こえが悪いのはプレトも承知だが、こんなに集中砲火されるものだろうか。中傷コメントを書いてきたアカウントをいくつかチェックすると、〈ゴライアス〉をフォローしている上に、異常にフォロワーが多かった。きっと製薬会社などに雇われた連中だろう。〈ゴライアス〉の返信が途切れた間に、プレトたちを一斉攻撃するよう仲間に指示を出していたのかもしれない。
そこから何度かコメントの応酬をすると、〈ゴライアス〉は仲間に向かって呼びかけた。
『このアカウントは、スパイク肺炎ワクチンが危険だとウソの情報を垂れ流している。それに加えて、動物を虐待して、毒物を売りつけている。救いようのない極悪人だ。ムーンマシュマロの被害者は声を上げてくれ』
動物実験を批判してきたアカウントたちが、今度はムーンマシュマロを食べて体調を崩したと訴えはじめた。
「これ、本当だと思う?」
本当とは全く思っていなさそうな口調でルリスが話した。
「まさか。どう見ても適当に書いているだけだよ。〈ゴライアス〉は腎不全とか言っていたけれど、他のアカウントは視力の低下とか歯痛とか書いているし」
「だよね。歯痛はどう考えても作り話すぎる。もし本当なら知覚過敏だと思う。もうちょっとまともなウソをつけないのかな」
「所長たちはこいつらを利用して得するのかな? ウソつきってバレバレだし、私たちのフォロワーも言い返してくれているし、こっちがまともなのは誰の目にも明らかだと思うんだけどなあ。最後に一回言い返して、今日は終わりにしようか」
プレトが書き込んだ。
『一つの公園で局所的に販売しているだけなのに、こんなに広く被害が出るわけありません。こちらには何も後ろめたいことはありませんし、ムーンマシュマロは安全です。ウソはやめたほうがいいと思います』
「はあ、疲れたね。明日に備えてもう寝よう」と、プレト。
「今日も頑張ったよね。おやすみプレト」と、ルリス。
携帯電話にムイムイを吸着し、消灯してベッドにもぐった。


翌日になると、いつもと同じ公園でムーンマシュマロの販売を行った。ルリスはレグルスを飛ばさず、プレトと共に会計作業をしている。昨日、〈ゴライアス〉とその仲間たちとバトルを繰り広げたことで客足が途絶えるかと思ったが、売れ行きは相変わらず順調だった。時折、購入した客が「頑張ってください」「悪口に負けないで」といった励ましの言葉をかけてきてくれる。
不安そうにしている客には安全であることを説明し、ルリスが目の前で食べてみせた。安堵したような表情で買っていく姿を見ていると、誤解は解けるものだと確信できた。なんだ、〈ゴライアス〉の誹謗中傷なんて大した効果がないじゃないか。こちらは正しいことをしているのだから、あんな奴らに負けるわけがない。この調子でワクチン被害者たちを救っていけばいいんだ。
プレトが次の客にムーンマシュマロを手渡そうとすると、いきなり商品台を蹴られた。ぶつかったのではなく、意図的に蹴り上げたようだ。着ぐるみ越しに目を合わせると、知らない男がこちらを睨みつけている。男は口を開いた。
「クライノートでさ、このマシュマロのせいで腎不全を起こした人がいるって話題になっていたけど、まだ販売してんの? ダメじゃない?」
「販売の許可は取っていますよ」
「そういうことじゃなくてさ、身体に悪いものを売ったらダメだろと言ってんの」
「これを食べたら、ワクチン被害者も元気になりますよ。健康な人が食べても害にはなりません。不安でしたら食べてみせますよ」
男はプレトの持っていたムーンマシュマロの袋を叩き落とし、グリグリと踏みつけた。
「今すぐ消えるなら、これで勘弁してやるよ。まだ話したいことがあるなら言ってみろ。全部、踏み潰してやるし、気色悪いレグルスも壊してやる」
プレトは頭に血が上り、思わず拳を作ったが、ルリスに「もう行こう」と言って手を引かれた。ルリスは手早く荷物をまとめると、プレトを助手席に押しこみ、レグルスを発進させた。自宅に着くと、プレトが着ぐるみの頭をソファに放り投げて言った。
「あいつ! ルリスが頑張って作ったものを踏み潰した! 絶対に許さない!」
「一つだけだから大丈夫だよ。ケガしなくてよかったね。あの男、クライノートがどうとか言っていたけど、ムーンマシュマロの悪口を信じているのかな」
「あの風貌、絶対カタギじゃないよ。ガラが悪すぎるもん。どうせ製薬会社とか所長あたりに雇われて、ムーンマシュマロの販売を妨害しているんだよ」
「そっか。ヘイルリッパーを連れている窃盗団を雇うくらいだもんね。いろんな悪い奴らと繋がっているんだろうな。ああ、いやだいやだ。SNS上ではともかく、リアルでの営業妨害はありえないよね」
ルリスはうんざりしているようだ。
「まだ今日の分は在庫あるし、他の場所で販売できるか回ってみる?」
「そうしよっか」
二人でレグルスに乗り、時間をかけて街を一周してみたが、どういうわけか、ガラの悪い連中があちこちうろついている。
「あいつら、みんな所長たちに雇われているのかな。どこに行っても販売できないようにしているのかも」
プレトは顔をしかめた。
「ダメ元で売ってみる?」
「さっきと同じように、嫌がらせされるのがオチだと思うよ」
「それなら、マシュマロを投げつけてみる?」とルリス。
「ふわふわだから、ダメージは与えられないだろうね。マシュマロがカラスのエサになるだけだ。あー、イライラする!」
プレトは両手で拳を作り、胸の前で打ち合わせた。着ぐるみを着ていたので、ぼふぼふと気の抜けた音が鳴った。

(94話につづく)

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