【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第44話・防犯・安全基本法の改正案」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険 – 「第44話・防犯・安全基本法の改正案」by RAPT×TOPAZ

レグルスの中に射し込んだ夕陽が、座席にぐったりともたれた二人を照らしていた。
「人口管理をしたい本当の理由……分からん……」
プレトが呟いた。
「そう簡単には見つからないよね……わざわざカモフラージュ用の理由を用意しているくらいだもんね……」
ルリスが目をショボショボさせている。プレトとルリスは、モンド機関の秘密を暴こうと必死で調べていたのだが、思ったような収穫は得られなかった。
プレトは、自分の身体がじんわりと熱を持っていることに気がついた。ドクププに刺されてからというもの、夕方になると決まって発熱するようになっていた。身体は怠くて重いが、これだけで済んでいるのは奇跡だ……と自分に言い聞かせながら、ルリスに声をかけた。
「もう夕方だし、ここにテントを張っちゃおうか」
「そうだね……脳のブドウ糖が枯渇したし、今日はこの辺にしようか……」
二人はよろよろとレグルスから降り、テントの設営や食事を済ませたが、ルリスはその間ずっと、ひとりごちていた。そんなルリスを励まそうと、声をかけた。
「今日調べはじめたばかりなんだから、うまくいかないのは当たり前だと思うよ。むしろここまで分かったことが奇跡だし……それよりも、どうやったら悪人の計画を阻止できるのか、考えた方がいいのかも。寝て起きたらスッキリして、はかどるかもしれないぞ」
「……それもそうだね。じゃあ、寝ようかな」
ルリスはそう言うと、シャクトリムシを思い起こさせるような動きで、テントの中の寝袋にもぐり込んだ。プレトはそれを見届けてから解熱剤を飲み、開口部からテントに入った。すると、ルリスはすでに寝息をたてて眠っていた。相当疲れていたのだろう。ハリケーンとレースをしたのだから当然だ。プレトは寝袋の中から天井を見上げた。脳みそが眠りにつく前に、情報を処理しはじめているのを感じる。
……そうだ、ムイムイハリケーンから助かったのに、まだお礼を伝えていなかった。プレトは胸の上に両手を組んで置き、目を閉じた。
『神様、なんとか避難できましたし、携帯も使えます。助けてくださって、ありがとうございます』
ここで終わりにしようとしたのだが、思い直して言った。
『神様、モンド機関が怪しいと思うのですが、どうお考えでしょうか? もし本当に悪いことをしているのなら、阻止させてくださいませんか? SNSに投稿して、みんなが助かるようにしたいのです。どうかお願いします』
プレトはそう祈り終えると、頭の中を空っぽにし、そのままじっとしていた。火照った身体で寝袋が温まった頃、幻の中で出会った少女の顔が思い浮かんだ。プレトはぎゅっと目を瞑って考えた。
……そういえばあの子、ワクチンによる被害よりも、こっちのほうが大事だと言っていたような……なんだっけ……そうだ、悪い顔の人形たちが、がらんとした街を作り変えていたな。監視カメラとか、宙に浮く三角のようなものを、たくさん設置していて……あの三角みたいなものってなんだったんだろう、浮いていたけど、どう見ても鳥ではなかったよなぁ……
そのとき、頭に電気が流れるような感覚が走った。勢いよくガバッと起き、叫んだ。
「あの三角みたいなやつ、まさか、円錐型の機械か?!」
「わあああ!」
プレトの大声で、寝ていたルリスが飛び起きた。目を見開いたまま、胸の辺りを押さえている。
「プレトどうしたの! ストーカーが来たの?!」
「いや、違うよごめん。考え事をしていたら、閃いたことがあってさ……」
プレトは、思いついたことを説明していった。
「円錐型の機械かぁ……警察庁のホームページには、開発中の新型防犯装置として紹介されていたよね」と、ルリス。
「夢では、いくつもの円錐が、がらんとした防犯カメラだらけの街の中を移動していたんだよ。人口が少ないのなら、そこまで防犯に熱を上げる必要もないと思うんだよね」
「そうだよね。防犯カメラだけで充分な気がするけれど……クライノートにニュースがないか、チェックしてみようかな」
ルリスはそう言いながら、携帯電話で調べ物を始めた。テントの外からは、葉が擦れ合う音と虫の声だけが聞こえてくる。静かな夜だ。
「うーん、警察庁とか、企業の公式アカウントには、特にそれらしい発信はないかな……今日出たニュースの中では、『防犯・安全基本法の改正案』が話題になっているみたいだけど」
「へぇ、どんな内容? ちょっと見せて」
プレトがニュース記事を読んでいくと、内容はこのようなものだった。

『国家規模で紛争や災害、パンデミックなどの緊急事態が起こり、国が有事だと判断する場合には、モンド機関を対策本部とする。
有事の際は犯罪数が増加する傾向が強いため、各国や各自治体に対して、新型防犯装置の導入を行い、受け入れない場合には罰金を科す。
新型防犯装置とは、危険人物を瞬時に判別し、捕縛する機能が搭載された装置を指す。
なお、モンド機関を対策本部とする理由は、主要国のトップが集うことにより、冷静で客観的な意見交換が期待できるためである』

「……」
一緒に読んでいたルリスは、口を半開きにしている。プレトは恐る恐る口を開いた。
「ここに書いてある新型防犯装置ってさ、多分、あの円錐のことだよね? あんな危険物を街中に解き放ったら、それだけで有事になりそうだけど……」
「あの装置って、ちゃんと危険人物を見分けられるのかな? そもそも危険人物の基準ってなに? しかも、なんでモンド機関を対策本部にするのかな? それぞれの国で対策して、他の国は必要に応じて援助すればよくない?」
ルリスが呆れたような表情をしている。
「これって、改正案が出ている状態だよね? 本当に改正されたらまずいぞ……」
「……」
ルリスが険しい表情をしている。
「パンデミックってさ、感染病が大流行するみたいな意味だよね? つまりモンド機関は、スパイク肺炎パンデミックが起きていることにして、危険なワクチンを食べさせて、人口を減らしたいのかな……」
「政府が有事だって言ってしまえば、あの円錐を解き放てるってことだよね。生き残った人たちの自由を制限したいのかも……あんなのがうろついていたら、外出できないよ」
いつの間にか、虫の声も聞こえなくなっていた。もう、虫も眠るような時間なのだ。この閑散とした地で目を覚ましているのは、プレトとルリスだけかもしれない。プレトは自分のこめかみをマッサージしながら言った。
「とりあえず、このことをクライノートに投稿してみようか」
「そうだね。起きたらどのくらい炎上しているかな」
ルリスが不敵な笑みを浮かべながら、クライノートに投稿していった。

プレトが目を覚ますと、テントの中にルリスはいなかった。開口部を開けて外を見ると、友人が愛車で空中散歩をしている。飛んでいるレグルスを見るのは久しぶりだった。手を振ると、すぐにこちらに気づいたようで、ゆっくりと下降してくる。
レグルスから降りたルリスは、パラライトアルミニウムを補充しながら言った。
「クライノート、大炎上祭りだよ!」
「あー、やっぱり……」
ルリスの携帯電話でクライノートを見せてもらうと、膨大な量のコメントが届いていて、大勢のユーザーが拡散してくれているようだった。見る度にインプレッション数が上がったり下がったりしている。クライノートの運営側が必死で操作しているのだろう。製薬会社にいいように使われて気の毒だ。意外だったのが、批判と賛同のコメントが、半々くらいだったということだ。
「ほとんど悪口だろうと思っていたけれど、そうでもないんだ」
「そうなの、わたしもびっくりだよ。特に、防犯・安全基本法の改正案には、反対の人が多いみたい。これ見て」
プレトは、ルリスが指さしたコメント欄を読んでいった。

『有事にわけわからん機械を導入するより、食料や住居を大量に確保する方がよっぽど犯罪抑止になるだろ』

『なんでモンド機関が対策本部なんだ? モンド機関が誰かを救ったことって、今まであったか?』

『国民に無断で法改正すんな。公共福祉への支援は遅えのに、こういうところだけ仕事が早いんだよな』

「なんというか、日頃の鬱憤が爆発しているような雰囲気だね」
プレトはそう言いながら、少し気分が良くなった。言いたいことを代わりに言ってもらっている気がしたからだ。そして、あるコメントに目が留まった。情報提供をしてくれているようだ。

『いつも見ています。ただの妄想なのですが、パラライトアルミニウムの値上げは、新型防犯装置の開発とか、設置にかかる費用に充てるためだったりするのかなーなんて……』

「なるほどね!」ルリスがうんうんと頷いている。
「みんなも色々考えてくれているんだ……私たちだけだと限界があるけど、こんなに味方してくれる人たちがいるなら、もっと多くの人に情報を届けられるかもね……ちょっと、呼びかけてみようか」
「やってみる」

『いつも見ていただき、ありがとうございます。今後も情報拡散をしていただけますとありがたいです。意見交換や情報交換をしてくださる方も大歓迎ですので、コメントやDMをいただけますか?』

「こんなものかな」ルリスが打ち込み終えて言った。
「ようし、出発の準備をしますか!」
「はーい!」
二人で野営の片付けをしていった。今までテントを使ったことなんてほとんどなかったのに、出発してからというもの、すっかり扱いに慣れてしまった。この調子で、情報収集にも情報拡散にも、悪人との戦いにも慣れていけばいいのだ。ルリスと共に、行けるところまで行けばいいのだ。

(第45話につづく)

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