【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第4話・虚偽の報道 」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第4話・虚偽の報道 」by RAPT×TOPAZ

「なんで、自殺? ありえないって」
心の声が口から漏れた。
「そうよね、さっき二人から聞いた話だと、明らかに他殺だなって思っていたから、なんでだろうねって、ビケさんと話してたの」
「あの、確認なんですけど、女性はドラム缶の中に入っていたんですよね?」とピケさん。
「そうです。前屈みたいな体勢だったので、お尻から入れられたんだと思います。しかも、蓋が閉まっていましたし」プレトは答えた。
「このニュースでは、ドラム缶のことに一切触れていないんですよ」
ニュースの内容が切り替わり、芸能人のスキャンダルが報じられはじめた。頭の中がこんがらがる。もっと知りたい。情報を整理したい。先ほどのニュースに関してネットで検索してみると、放送された内容がそのまま記事として上がっていた。

『今月◯日、街外れの湖畔で女性の遺体が見つかりました。同日の午後◯時ごろ、「遺体を発見した」との通報が入ったため、事件が発覚。警察によると、遺体は10代から20代前半の女性とみられ、大きな外傷は確認されておらず、下着を上下着ている状態だったとのことです。現場の状況から、警察は自殺の可能性が高いと判断し、死因や女性の身元に関して詳しく調査する方針です』

いくつかのメディアが取り上げていたが、どこもほとんど同じ内容だった。ドラム缶に閉じ込められていたことが全く書かれていない。こちらの証言がなかったことになっているのだろうか。他殺体が湖畔に遺棄されていたという点が重要だと思うのに、どうしてすっぽり抜けているのだろう。奇妙な事件が起きたから気を付けるようにと、国民に注意喚起するのがメディアの役目ではないのか。
「こんなニュース、ウソだよ。私たち、実際に見たんだもん……」
プレトは頭を掻きむしった。あの女性がこのニュースを見たらと思うと悔しくなる。女性の身元が判明して遺族に連絡がついたとしても、こんな報道をしているようでは、遺族に対して真実が伝えられる可能性は低いのではないか。
「警察に抗議してみる?」とルリス。「もう一回証言するから、正しい情報を流すようにって伝えてみるの」
「もう一回証言か……証言するのはいいけど、警察がちゃんとこっちの話を聞いてくれるとは思えないよ。ハギ警官もあんなだったし」
チユリさんが話し出した。
「それじゃあ、クライノートに書き込んじゃうのはどうかしら。自分たちが第一発見者で、どう見ても他殺だったって投稿するの。〈プレパラート〉のアカウントはフォロワーが多いから、拡散してくれる人もいると思うわ」
「確かに、クライノートに書き込めば、誰かの目には留まりますね。でも、それで解決になるんでしょうか。他殺だという情報が拡散されても、あの女性を手に掛けた犯人や、どうしてあんなことになったのかは、きっと判明しませんよね……まさか犯人が名乗り出てくるわけないですし」
「そうね。けど、プレトさんとルリスさんは少しスッキリするんじゃないかしら。目の前でウソの情報が垂れ流されているのは気分が悪いでしょ? それに、被害者は正しい情報を発信してくれたら嬉しいと思うの。ただの想像だけどね」
「……私がもし被害者だったら、正しい情報を流してくれって思いそうな気がします。あの人は亡くなっちゃってるから、どう考えてるかは分かりっこないけど……よし、投稿しちゃいます!」
プレトは携帯電話を操作した。

『湖畔で女性の遺体が見つかったというニュースが報道されています。その事件の第一発見者は私たちです。報道内容に誤りがあるので訂正させてください。女性はドラム缶に閉じ込められていたので、自殺ではないと思います。私たちが見つけた時には既に亡くなられていました』

ニュース記事のリンクを添えて投稿した。
「これで伝わるかな。ルリスはどう思う」
「いいんじゃない。そうだ、投稿に反応が来るまで時間がかかるだろうし、今のうちにレグルスの荷物を降ろそうよ」
「まずい、忘れてた。早くしないと、雲とドクチワワがしなびちゃう」
レグルスの荷台を見ると、ドクチワワはあまり変化していなかったが、雲はだいぶ小さくなっていた。ルリスが大量にラピス溶液をかけてくれたから、なんとか原型を保っている。ラピス溶液を張ったバケツに、バレーボール大の雲を沈めた。これでしばらくは霧散せずに済むだろう。ドクチワワは、採取したうちの半分を冷凍保存して、もう半分はドライフラワーにしよう。ビケさん協力のもと、天井に紐を張り巡らし、ドクチワワを吊るしていった。緑のおかげでボロ家の見栄えが少しマシになった。花屋のようで悪くない。
「プレト、クライノートにコメント来てるよ」
携帯電話を確認すると、先ほどの投稿に何人かが反応してくれていた。大抵の人は無言で拡散しているが、報道内容の方が正しいだろうと主張するコメントもいくつか付いている。プレトたちが第一発見者である証拠はないのだから、こういったコメントが投稿されるのは当然だ。
「まあ、想像通りだね」
とりあえず書き込んではみたが、ここからどうしたらいいのかは分からない。画面をスクロールしていると、プレトの携帯電話に着信が入った。〈アネモネ〉からだ。
「こんにちは。クライノート見ましたよ。あの事件、プレトさんたちが見付けたんですか」
「そうなんですよ。めちゃくちゃ怖かったです。ドラム缶をこじ開けて女性を引っ張り出したので、どう考えても自殺じゃないんですよね」
「警察が、他殺を自殺として処理しようとしてるってことですよね。似たような事件が、前にも起こったって聞いたことありますよ」
「マジですか」
「マジです。大学の友だちに都市伝説とか怖い話が好きな子がいて、教えてもらいました。なんか、不審死とかの情報を調べて、ブログに公開している人がいるみたいで、友達はそこから情報を集めたみたいです。そのブログのリンクも友達から教えてもらったので、プレトさんに送ってもいいですか?」
「嬉しいです、お願いします。今時の大学生はそういう話題にも興味があるんですか?」
「うちはあんまり興味ないんですけど、不審な死に方をしているのが若い女性ばっかりなんで、怖いねー、気を付けようねーっていう会話はしてます」
「皆んなで気を付けてくださいね。クリームにもよろしく」
「はーい、プレトさんたちも気を付けてくださいね。クリームにも会いに来てくださいね」
通話が終わると、ルリスが傍にやってきた。
「〈アネモネ〉さん? 元気そうだった?」
「うん。不審死関係の情報を見れるかもしれないんだ……あ、早速送ってきてくれた」
アネモネが送ってくれたリンクをクリックすると、個人のブログに飛んだ。ホーム画面の一番上に、〈アリーチェブログ〉という題が載っている。
過去に発生した不審死に関して情報を集め、簡潔にまとめつつ、推測という形で紹介しているようだった。
「へえ、結構読みやすいかも。今日の活動が終わったら、じっくり読むことにしようかな」
夕方、研究所としての活動が終わり、チユリさんとビケさんが帰宅した。夕飯を済ませて、今は脱衣所にいる。シャワーを浴びるのが怖いとルリスがベソをかきはじめたので、ここに座って会話しているのだ。遺体を見てしまったのだから無理もない。数日はこの状態が続くだろう。
「プレトいるぅ?」
シャワーの音に混ざってルリスの声が聞こえてくる。頭を洗っているようだ。子守りをしている気分になってくる。
「いるよー」
「ほんとにぃ?」
「これが私の声じゃなかったら大問題でしょ」
「確かにぃ」
「ちょっとアリーチェブログ読んでもいいですか」
「いいですよぉ」
携帯電話でブログを開き、プロフィールページを見た。筆者はアリーチェというらしい。シンプルなブログ名だ。フリーのジャーナリストとして活動しているらしく、不審死以外の事象も追っているようだ。プレトたちが発見した遺体の件にはまだ触れていないようだが、数ヶ月前にも若い女性が不審な死を遂げたらしい。その事件は、両手両足を縛られていたのに、遺書が見付かったという理由から自殺として片付けられたそうだ。
「物騒だなー」
一人ごちながら画面を操作していくと、『初めての方へ』と題されたページがあった。このブログの初心者向けに、事件を種類ごとにざっくりとまとめているようだ。全ての記事を読まなくても概要が分かるように気遣っているのだろう。
その中に『不審死リスト』というものがあった。割と最近の情報も追加されている。リストに目を通すと、背骨から体温が逃げていくような感覚があった。この国では、一定の周期で若者の不審死が相次いでいるらしい。プレトたちが生まれる前からだ。

(第5話につづく)

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